現場の声を、どう聞き、どう伝えるか
この健全かつ実効性ある運用のためには、介護事業者への適切な「介護報酬」が必要であり、
3年に1度の見直しでは、介護の現状を正しく把握することが重要である。
このため、国の審議会や厚生労働省が改定を議論する上で根拠となる
データの収集・報告を行う業務があり、入札により当社の提案が評価され、本業務を受託した。
ヘルスケア&ウェルネス事業部
ヘルスケアDXチーム
2013年入社
工学研究科 社会基盤工学専攻 修了
大学・大学院では、地震・豪雨時の交通をテーマにして道路網の災害時の機能とその便益評価を研究。趣味はコーヒーとハーブティー。自宅で豆を挽くことや、ハーブを育てるのがささやかな楽しみ。今は4歳と2歳の子育てに奮闘中の日々。
ヘルスケア&ウェルネス事業部
介護・医療政策チーム
2019年入社
医学系研究科 環境労働衛生学専攻 修了(博士)
学部・大学院では免疫学といわゆる公衆衛生学を専攻し、労働・工事現場や風力発電所などで発生する低周波騒音が生体に与える影響を研究した。学生の頃はマウス300匹超を飼育していた。何かしらのげっ歯類の世話をしたく、次の引っ越し先としてペット可の物件を探している。
01
プロジェクトの背景
実態に適った、居宅介護支援サービスであり続けるために
介護を社会全体で支えることを目的に、2000年に施行された「介護保険制度」。当初、これを利用する要介護(要支援)の認定者数は218万人ほどだったが、2015年には600万人を超え、その後も増加し続けている。
今後、日本の総人口が減少し、高齢者(特に75歳以上の高齢者)の占める割合が増加していく中でも、適切なサービスの提供が行われなければならない。それには介護サービスを提供する事業者が、適正なサービス利用料を受け取れることが重要だ。これが「介護報酬」であり、サービス利用料の1~3割を利用者が自己負担し、残りは事業者が市町村に請求する仕組みとなっている。
そこで必要なのが、どのようなサービスに対していくら請求できるかを定める「介護報酬の基準額」だ。介護現場における運用実態に応じたものであり続けることが重要で、現在の介護保険制度では、その見直しを3年に1度としている。
この見直しには、日本における介護の現状を正しく調査することが不可欠である。国の審議会や厚生労働省による議論で根拠となるデータの収集・報告を、MRAが担った。
どのような調査が行われたのか。
MRAが担うことになった理由は。
02
MRAの取り組み/課題の克服
状況に応じて、調査の内容・方法も変化していく必要性
それでは、継承したMRIの知見やノウハウを使って、今回もこれまで通りの調査を行えばよかったのか。そう簡単なことではなかっただろう。どのようにプロジェクトが進んだのか、全体像から聞いてみた。
メンバー体制や業務スケジュールはどのようになっていたのか。
始めに、クライアントである厚生労働省と打ち合わせを行って業務方針を決め、調査票案を作成し、9月頃の検討委員会で調査票案を審議していただきました。これが通ると、次に調査票や調査依頼状、説明資料などの印刷・発送準備に入ります。11月頃には、各地の居宅介護支援事業所へ発送してアンケート調査を実施しました。日本全国に約4万箇所ある居宅介護支援事業所の中から、無作為に5,000箇所を抽出しています。そして、年明け後に集計・分析と、報告書の作成を行って完了という流れでした」
順調に進んだように聞こえるが、困難なシーンもあったのでは。
また、"壁"と呼べるような難題にもぶつかりました。調査票を審議していただいた結果、調査対象をより細分化し、調査票の種類を増やすことになったのです。当初予定の5種類から9種類に増えたことで、印刷・封入・発送・データ入力などの費用が嵩み、プロジェクト収支が悪化することが予測される事態となってしまいました」
03
プロジェクトの成果と展望
MRIグループの強みや、新たな提案をする姿勢で前進
やはり、プロジェクトの遂行には、課題や壁があった。そして、それは単純な努力だけでは乗り越えられなかったことだろう。MRIから継承した知見やノウハウというのも興味深い。どのようにして、成果につなげられたのか。
成果につなげることができた要因は。
1つめは、検討委員会において、学識者や医療機関の先生方、そしてお客様である厚生労働省と建設的な議論を重ねられたことです。調査票を作る段階で必要な設問項目を精査することができ、これまでの経緯も反映し、今後の政策を見据えた設問を設定することができたことで、よりよい調査を実施できました。
2つめは、三菱総合研究所から継承したノウハウです。それも大きく2つあり、まず1点目は冒頭でも述べましたようにMRIが居宅介護支援サービスに関する実態調査を企画し、政策の支援をしてきた経緯があります。2点目は厚生労働省の保有する「介護保険総合データベース(以下、介護DB)」に関する業務をMRIが幅広く支援してきたことです。これについては、3つめでもお話します。そして、これらから得た知見を本プロジェクトの中でも活かすことができたことは大きいです。MRIの介護DBの知見を有するメンバーと連携することで、有意義な分析を提案できたと考えています。
そして3つめに、シンクタンクとしての新たな提案ができたことだと考えます。調査・報告の内容に関して、厚生労働省から示される仕様書の要件を満たすだけでなく、他に実施した方がよいことはないか考えて提案したことで、より有意義な調査結果が得られました。具体的には、医療機関への調査です。従来は、居宅介護支援事業所に対してのみ調査しており、医療機関は調査対象ではありませんでした。しかし、近年ケアマネジャーと医療機関の連携の重要性が増していることから、ケアマネジャーに対して医療機関がどのような意見を持っているのか調査すると有意義ではないかと考えました。最終的に得られたデータをみると、それが有効だったことが分かりました。また、先ほどの介護DBのデータを使った分析によって、政策検討に必要なデータを必ずしもアンケートから導き出さずとも知ることができ、事業所の回答負担を減らせることを提案しました」
今回の経験は、今後どのようなことにつながっていきそうか。