地域経済を支える農業の法人化

2017年8月30日

地域創生事業部 仲田 優

<Point>

 本稿は筆者が分担執筆した『公共政策のフロンティア』(2017年4月、成文堂、山本哲三/編著)の「第3章 農業改革(産業としての農業)」から抜粋、一部加筆して紹介するものである。

(1)はじめに

 少子高齢化・人口減少の進行が著しい地方の衰退が懸念されている。持続的で活力ある地域経済社会を維持するためには、あらゆる分野において抜本的な改革が必要である。とりわけ、農業は全国各地に根づき、食品加工や流通販売などの関連産業とともに地域の経済を支えており、経済規模こそ小さいものの重要である。

 ここでは、農業の法人化に着目し、普及状況、効率的な生産への貢献、効率性を高める経営要素を分析することで、その普及促進に向けた示唆を得た。

(2)法人化の普及状況

 まず、わが国の農林業・農山村の現状と変化を捉えている農林業センサスから法人化の状況を分析した結果を表1に示した。

 農業経営体(一定規模以上で農業経営もしくは農作業受託を行うもの)を組織形態別に見ると、農業経営体の大部分を占める家族経営体の減少が加速している。経営耕地面積規模別に見ると、10ha未満の経営体は減少傾向が続いており、10ha以上の経営体は増加傾向が続いている。特に100ha以上の経営体は、大幅に増加している。このように、法人経営や耕地面積の規模拡大が進んでいるものの、法人化している経営体、耕地面積の規模が大きい経営体の絶対数は少ない。

 農業就業人口の高齢化も懸念されるが、家族経営体と組織経営体別に雇用者の年齢構成を見ると、組織経営体では家族経営体と比べて、若い年齢層で構成されている(図1)。

表1 農業経営体数(組織形態別・経営耕地面積規模別)
合計 法人化している 地方公共団体・財産区 法人化していない
農事組合法人 会社 農協・森林組合等の各種団体 その他の法人 家族経営体
2005年 2,009,380 19,136 2,610 10,982 5,053 491 505 1,989,739 1,976,016
2010年 1,679,084 21,627 4,049 12,984 4,069 525 337 1,657,120 1,643,518
2015年 1,377,266 27,101 6,199 16,573 3,438 891 228 1,349,937 1,339,964
増減率(%)
2010年/2005年 -16.4% 13.0% 55.1% 18.2% -19.5% 6.9% -33.3% -16.7% -16.8%
2015年/2010年 -18.0% 25.3% 53.1% 27.6% -15.5% 69.7% -32.3% -18.5% -18.5%
総数
1ha未満 1~10ha 10~50ha 50~100ha 100ha以上
2005年 2,009,380 1,150,656 815,680 37,283 4,897 864
2010年 1,679,084 932,674 696,868 42,465 5,857 1,220
2015年 1,377,266 741,363 583,119 45,073 6,121 1,590
増減率(%)
2010年/2005年 -16.4% -18.9% -14.6% 13.9% 19.6% 41.2%
2015年/2010年 -18.0% -20.5% -16.3% 6.1% 4.5% 30.3%

注:農業経営体とは、経営耕地面積30a、または農産物販売金額50万円相当以上の規模の農業経営を行うもの、もしくは農作業受託を行うものである。出所:農林水産省「2005年農林業センサス」「2010年農林業センサス」「2015年農林業センサス」

図1 経営体別雇用者年齢構成

雇用者の年齢構成

出所:農林水産省「2015年農林業センサス」

(3)法人化による経営効率性の向上

 次に、わが国の農業は法人化によってどの程度効率性が向上しているのか、各組織経営体の効率性をSFA(Stochastic Frontier Analysis;確率的フロンティア分析)によって比較した。

 生産関数の推定結果(表2)を見ると、説明変数は農業労働時間を除いていずれも有意で、符号も整合している。この推定結果のパラメータの大きさから、効率的な生産を行うためには、農業労働時間の投入よりも経営耕地面積の規模拡大や機械化に代表される農業固定資産の増加が重要であることがわかる。

 経営組織体別の効率性(図2)を見ると、組織法人経営(集落営農)は効率性の点で常にリードしており、生産性の維持、改善を主導していると見受けられる。いずれの経営組織も時間とともに効率性は高まり、近年ではほぼ同水準となっている。

表2 生産関数の推定結果
推定値 標準誤差 z値 p値 有意性
(切片) 1.322 0.286 4.629 0.0000037 ***
経営耕地面積(LN) 0.893 0.098 9.139 〈2.20E-16 ***
農業労働時間(LN) 0.080 0.168 0.473 0.6361359
農業固定資産額(LN) 0.147 0.056 2.600 0.0093347 **
time(時間効果) 0.329 0.050 6.551 5.72E-11 ***
μ(非効率性分布平均値) -0.136 0.051 -2.643 0.0082291 **
σu^2(非効率性分布分散) 0.005 0.002 2.190 0.0285046 *
σv^2(誤差分布分散) 0.003 0.001 3.816 0.0001355 ***
*** 0.1%有意,** 1%有意,* 5%有意,. 10%有意
対数尤度 51.41671
パネルデータ
クロスセクション 4
時点 11
標本数 39
欠損 5
図2 効率性の算出結果

注:時間効果の係数が大きく推定されたため、いずれの経営組織体も時間とともに効率性が改善している。

 組織法人経営において効率を高めている経営要素を探るために、先に推計した効率性を被説明変数とし、組織法人経営おける詳細な会計関連データを説明変数とした回帰分析を行った。

 単回帰分析の推定結果を表 2に示す。労働についてみると、農業労働時間は有意な変数が多く係数が正値となっている。これは労働時間を集中的に投入できると効率性が高まることを意味し、手をかければ価値が高まるという農業的な側面があらわれている。一方、農業生産に関連する事業に該当する関連事業労働時間は有意である変数が少ないものの係数は負値となっており、労働時間を抑制しつつ効率性が高められている可能性がある。農業専従者数はいずれの変数も有意で、特に雇用の係数が高い。専従の雇用者を増やすことで効率性が高まると考えられる。

 資本についてみると、経営耕地面積に関する変数はいずれも有意であり、自作地で係数が負値、借入地で係数が正値となっている。借入地の活用による農地の集約や規模拡大によって効率化が図られていることがうかがえる。資産については有意な変数が多く、流動資産については係数も正値となっており、資金が潤沢であると効率性が高まる結果となっている。ただし、固定資産の係数は負値となっており、固定資産が多いほど効率性が低くなる。固定資産を有効に活用できていない可能性がある。負債に関する変数はいずれも有意で係数も負値であり、負債が少ないほど効率性が高まる。投資については、有意な変数が少ないものの、建物についての投資は有意で係数も正値となっており、効率性への貢献が一定程度見受けられる。

 事業支出についてみると、有意となっている変数のうち、生産原価の労務費、地代については係数が正値であり、前述したように、雇用者や借入地を活用することで効率性が高まることと整合する。販売・管理については係数が負値である。6次産業化に見られるように加工や販売面での連携等により販売・管理の手間が減れば経営の効率化が期待できる。

表3 効率性に関する単回帰分析結果
説明変数 決定係数 係数推定値 係数p値 切片推定値 切片p値
農業労働時間 0.828 0.00009 0.000 *** 0.21925 0.054
(構成員) 0.918 0.00014 0.000 *** 0.23768 0.005
(雇用) 0.315 0.00015 0.042 * 0.50502 0.016
(生産) 0.568 0.00014 0.004 ** 0.08366 0.712
(販売・管理) 0.003 0.00029 0.336 0.65438 0.028
関連事業労働時間 0.419 -0.00035 0.019 * 1.06025 0.000
(構成員) 0.136 -0.00138 0.143 1.08988 0.000
(雇用) 0.435 -0.00041 0.016 * 1.03194 0.000
(販売・管理) 0.080 -0.00052 0.204 0.96627 0.000
農業専従者数 0.827 0.18737 0.000 *** 0.22212 0.051
(構成員) 0.920 0.28526 0.000 *** 0.23960 0.004
(雇用) 0.316 0.30529 0.042 * 0.50599 0.016
経営耕地面積 0.570 0.00041 0.004 ** -0.38519 0.290
(自作地) 0.904 -0.00061 0.000 *** 1.07429 0.000
(借入地) 0.848 0.00029 0.000 *** 0.07887 0.494
資産 0.276 -0.00001 0.056 . 1.34847 0.000
流動資産 0.411 0.00002 0.020 * 0.52098 0.004
(当座) 0.335 0.00003 0.036 * 0.47966 0.023
(棚卸) -0.063 0.00004 0.538 0.81501 0.000
固定資産 0.622 -0.00001 0.002 ** 1.20264 0.000
(有形) 0.622 -0.00001 0.002 ** 1.20820 0.000
(無形) 0.396 -0.00121 0.023 * 1.05086 0.000
負債 0.716 -0.00001 0.001 *** 1.29634 0.000
流動負債 0.667 -0.00002 0.001 ** 1.12564 0.000
固定負債 0.733 -0.00003 0.000 *** 1.58692 0.000
期中投資額 0.240 0.00008 0.072 . 0.64161 0.001
(土地) -0.109 0.00002 0.909 0.90464 0.000
(建物) 0.198 0.00019 0.095 . 0.79545 0.000
(自動車) -0.041 0.00018 0.455 0.87297 0.000
(農機具) 0.054 0.00006 0.241 0.74484 0.000
期中借入額 -0.041 0.00002 0.456 0.82124 0.000
期中返済額 -0.105 0.00001 0.835 0.87232 0.001
事業支出 -0.012 0.00001 0.371 0.47698 0.326
(生産原価) 0.140 0.00002 0.139 0.25342 0.547
(労務費) 0.451 0.00005 0.014 * 0.32900 0.120
(地代) 0.413 0.00029 0.020 * -0.38066 0.424
(減価償却費) -0.076 0.00011 0.599 0.54838 0.428
(販売・管理) 0.209 -0.00007 0.089 . 1.39570 0.000

(4)まとめ

農業の法人化に着目し、普及状況、効率的な生産や経営への貢献、効率性を高める経営要素を分析した。法人経営は着実に進展し、耕地面積の規模拡大や若い就業者の受け入れが見られるものの、法人経営体の絶対数は少なく、さらなる進展が期待される。

組織法人経営(集落営農)の効率性が相対的に高く、法人化によって生産性が改善している。その要因として、専従の雇用者による労働力の投入、借入地の活用、資金の投入、6次産業化が挙げられる。

参考文献